買われた花嫁は冷徹CEOに息もつけぬほど愛される
「以上が八神様よりお預かりしている品になります」
「はぁ」
 海翔の指示に従い、フロントに連絡を入れて十分。
 彼の部屋の玄関先で、実音はなんともいえない思いで、マンションのコンシェルジュと向き合っていた。
 まずは彼の指示に従うべきと、内線で電話をかけると、応対に出た女性に「すぐに窺います」と返され通話が切れた。
 そしてその数分後にドアチャイムが鳴ったので玄関を開けると、様々なブランドのロゴが入った荷物を大量に抱えた女性が立っていて、それを玄関の中へと運び入れたのだった。
 聞けば、海翔から依頼を受けたデパートの外商が朝のうちに届けてくれたもので、実音が起きたら部屋に届けるように言われていたのだと言う。
「八神様よりお預かりしている伝言として、これらの品から使えそうなものを適当に使ってくれればいいとのことでした」
 そう言いながら彼女が視線を向けるのは、今さっき運び込まれた品々。
 海翔としてはいつまでも酒臭いブラウスを着ている実音を気の毒に思って、化粧品や替えの洋服といった身支度に必要なものを一揃え準備してくれただけなのだろうけど、そのどれもがハイブランドな上、数が多い。
「それと昼食は、八神様より消化のいいものを手配するよう承っておりましたので、中華粥をメインにしたケータリングを注文させていただきましたが、別のものがご希望でした変更いたしますのでお申し付けください」
 ツンとした口調で話す彼女が、実音にもの言いたげな眼差しを向けてくる。
 このコンシェルジュを務める彼女が、普段からこんな態度で仕事しているとは思えない。
 見目麗しい独身貴族である海翔の部屋に泊まった実音に、あらぬ誤解をしているのだろう。
(違うんですっ! 私は、彼の会社の社員なんですっ!)
 そう説明したいのだけど、それはそれで、彼女の誤解を増長させそうな気がするので黙っておく。
「どうされます?」
 落ち着きなく口をパクパクさせていると、コンシェルジュの女性にギロリと睨まれた。
 敵意を隠さない眼差しに縮こまりつつ「それで大丈夫です」と答えて彼女に引き取っていただくことにした。
 玄関ドアを閉めた実音は、フウッとため息を漏らした。
「緊張した。私と八神さんの間に、なにかあるはずないのに」
 彼は公私を分ける人だし、すごくモテるのだ。実音なんかに手を出すはずがない。
 海翔としては、あんな場面に遭遇したことで、必要以上に実音を気遣ってくれているのだろう。
 この驚くような量のハイブランドの品々も、彼の過剰な気遣いからくるものだ。
 そんなこと十分わかっているはずなのに、彼の優しさに触れて、落ち着かない気持ちにさせられる。
 届けられた品をそのままにしておくのも悪いと思い、それらの品をリビングへと運び込んだ実音は、自分が着ているブラウスに鼻を寄せた。
 自分自身、アルコール臭が鼻について目が覚めたのだ、このままでいる方が海翔にも迷惑だろう。
「八神さんに、メッセージだけでも入れておこう」
 彼のメモにも、シャワーなど好きに使ってもらって構わないと書いてあったので、その好意に甘えて、シャワーを使わせてもらおう。
 昨日はメイクもそのままして眠ってしまったので、一度全てを洗い流したい。
 本当は電話で直接お礼をいいたいのだけど、忙しい彼に電話をかけては迷惑だ。彼が自分のタイミングで確認できるメッセージの方がいいだろとバッグに入れっぱなしにしてたスマホを取り出した実音は、そこに表示された両親からのおびただしい数の着信や、メッセージに驚かされた。
 よく考えたら、自分は無断外泊をしているのだから当然だ。
 まずは家族に連絡を入れようとスマホを開いた実音は、そこに並ぶ文面になんとも言えない気持ちにさせられた。
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