買われた花嫁は冷徹CEOに息もつけぬほど愛される
 お風呂を出た実音が、軽く髪を乾かしてリビングに入ると、ソファーに座っていた海翔が立ち上がりダイニングに行ったかと思うとグラスに注いだ水を手に引き返してきた。
「お酒の方がいいか?」
 水の入ったグラスを差し出しながら海翔が聞く。
 食事中、二人で軽くワインを飲んだ。実音はそれほどアルコールに強くないので、それで十分だと、お礼を言って水を受け取る。
「のぼせなかった?」
「大丈夫です」
「そうか。よかった」
 何気ない感じで、海翔が実音の頬に手を触れさせた。
 湯上がりの火照った肌に、彼の手はひどく冷たく感じてしまい、無意識に肩が跳ねる。
 実音のその反応に、海翔は申し訳なさそうに手を引っこめた。
「寝室、どうする?」
「え?」
 驚いて顔を上げると、お互いに立ったまま話していたので、背の高い彼を見上げる姿勢となる。
「夫婦として同じ俺の寝室で寝てもいいし、別々に寝てもいい」
 夫婦として……という言葉で、彼の言わんとすることを理解する。
 彼が女性として実音を求めてくれているということだ。
 結婚しておいてなんだけど、形だけの結婚のため、彼に求められるということを想定していなかった。
「えっと……一緒……で、いいです」
 深く考えるより早く、口が勝手にそう答えていた。
 実音の返事を聞いて、海翔の纏う空気がふわりと緩むのを感じた。
 まるで緊張が解けたような変化を不思議に思いつつ視線をあげると、優しく微笑む彼と視線をが重なった。
「じゃあ、先に寝室に行っていて。俺の寝室は、実音の部屋の向かいだから」
 実音の肩をポンッと叩くと、彼はバスルームに向かった。
 なんだか、海翔が実音に拒絶される心配をしていたようにも思えたけど、女性の扱いに慣れている彼がそんなことあるはずない。
 全てにおいてハイスペックな彼は、いい歳して初恋もしたことのない、自分とは違うのだから。
(一緒に寝るってことは、そういうことだよね……)
 彼がバスルームに入っていく気配を感じ、急に緊張してきた実音は、気持ちを打ち付けるためにグラスに残っていた水を一気に飲み干した。
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