買われた花嫁は冷徹CEOに息もつけぬほど愛される
 海翔は、自分の傍らで規則正しい寝息を立てる実音の頬を撫でた。
「悪かった」
 実音の言葉は、海翔のかなり痛いところを突いている。
 これまでろくでもない恋愛しかしてこなかったから、大事にしたいと思う女性とどう接すのが正しいのかわかっていないのだ。
 今までの自分は、親密な関係になった相手にも、自分の内側に踏み込まれるのが面倒で、一定の距離を保っていた。
 どうせいつかいなくなる人なのだから、相手を深く知る必要はないと思っていたのだ。
 過去の女性にも、その淡泊な性格をなじられたことはあるが、相手が望むものを好きなだけ与えるのだから文句を言われる筋合いはないと、その言葉を無視して、それで離れていくのであればそれでかまわなかった。
(人間関係なんて、執着しても疲れるだけだ)
 ずっとそう思っていたのに、実音に執着してしまう自分がいる。
 そして、あんなふうに彼女に泣かれ、その涙の理由がわからなかった自分がひどくもどかしかった。
 実音が、過去に関係を持った女性のように高価なものを贈れば満足してくれるような性格をしていないのはわかっていた。
 それなのに、そんなふうに振る舞ってしまったのは、相手の弱みにつけいるようにして結婚を持ち掛けた後ろめたさと、融資を条件に彼女との縁談を進めた際、彼女の父に実音が家のために渋々嫁ぐ覚悟をしてくれたとも聞かされたせいだ。
 なんでも、小松メディカルの息子との件が破談になったところで、彼女には他の縁談がきているのだという、それで海翔は、彼女との結婚を急いだ。
 愛なんて幻想だと散々嘯いておいて、彼女に愛されていないと思い知るのが怖い。
 それでも、実音が望むのであれば、自分が傷つくことになってもいいから、彼女を知りたいと思った。
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