買われた花嫁は冷徹CEOに息もつけぬほど愛される
芽衣子との待ち合わせは、ヤガミのオフィスがあるエリアから駅三つほど離れた場所にあるイタリアレストランだった。
ロウソクの形を模したLEDのライトが輝くシャンデリアが柔らかく照らす店内は、テーブル同士の間隔が広く、間にドレープをたっぷり取ったレースカーテンが掛けられていて半個室状態になっている。
隣のテーブルに座る人の顔が見えず、内緒話をするのにちょうどいい。
「本当に結婚したんだ。おめでとう」
実音の食事の注文を済ませるなり、芽衣子は実音の左手を取って「もう有坂さんて呼べないね」などと騒ぐ。
左手には、今日も彼から贈られた指輪が嵌められている。
芽衣子は、実音の手を高く持ち上げ、照明にかざして反射を楽しみながら祝福の言葉をくり返す。
「幸せそうでよかった」
ひとしきり指輪の輝きを堪能した後で、芽衣子が手を離してくれた。
「ありがとう」
「でもCEOは指輪をしてなかったよ」
彼女のその言葉に、実音は小さく肩を上下させる。
「休日は海翔さんも指輪をしているのだけど、周囲に公表するまでは仕事の時は外すことにしているの」
実音の説明に、芽衣子は「海翔さんだって〜」と茶化してくるので恥ずかしい。
「仕事辞める前、実音ちゃんの様子が変だったかた心配していたんだ。結婚するって言うのに、相手の子と、なにも教えてくれないし。でも相手がCEOだったから、言いだせずにいたんだね」
芽衣子は、さっそく実音の呼び方を『有坂さん』から『実音ちゃん』に変更している。
「そういうわけじゃないんだけど、心配かけてごめんね」
「実音ちゃんが幸せなら、それでいいよ」
芽衣子は手をヒラヒラさせて、明るい口調で言う。
「ありがとう」
そんなふうに言われると、彼女を騙していることがもうしわけなくなる。
それでも本当のことを打ち明けるわけにもいかず、実音がぎこちなくお礼を言うと、芽衣子は表情をちょっと真面目なものにして言う。
「でも、CEOと結婚したこと、早めの公表した方がいいよ」
「え? どうして?」
意味がわからず首をかしげると、芽衣子は口元に手をそえ、声を潜めるようにして言う。
「実音ちゃんがいなくなってから、社内社外とわず、CEOを狙ってる女性陣のアプローチすごいんだから」
「え?」
どいうことだろうと目を丸くする実音に、芽衣子は、テーブルに肘をついてやれやれといった感じで息を吐く。
「CEOがモテるのは以前からのことだけど、これまでは、実音ちゃんがいるから諦めていた女性も多かったじゃない。だけど実音ちゃんが退職して、CEOが元気ない今がチャンスって感じで、アプローチが激化してるのよ」
「なにそれ、なんの話?」
実音が会社を辞めたぐらいで、彼が落ち込むはずがない。
目を瞬かせる実音に、芽衣子はそんなことないと力説する。
しかも「結婚していつでも会えるのに、職場で会えないだけでなんなに落ち込むなんて、すごい愛があるよね」なんて言ってくる。
その誤解は、何処からくるのだか。
彼と実音が結婚することになったのは、偶然が重なった成り行きに過ぎない。
もしあのバーで再会していなければ、自分たちはそれっきりの関係だったのだから、彼が落ち込んだりするはずがないのに。
ついでに芽衣子は「前から、CEOと実音ちゃんがふたりで話している時の雰囲気に特別感があるのは、わかってたんだよね」なんてことまで言っている。
もちろんそんなのは、後付けの感想でしかない。
だからといって否定するわけにもいかないのだけど。
芽衣子は、そんな実音の胸の内に気付くことなく、どこの部署の誰が海翔にアプローチしているのかを話し、実音のことを愛している海翔はちっともなびかないと誇らしげに付け足した。
同情で結婚してもらっている身としては、海翔がモテるという話ばかりが気になってしまう。
そしてお喋りを楽しみながら食事を終えて会計をしようとしたら、事前に海翔から店に連絡が入っていて、今日の請求は彼に回すよう言われていると支払いを断られてしまった。
朝、実音に店の確認をしたのは、このためだったらしい。
彼がそんな気遣いのおかげで、芽衣子がよけいにふたりの間には揺るぎない愛があると勘違いされてしまったので恥ずかしい。
ロウソクの形を模したLEDのライトが輝くシャンデリアが柔らかく照らす店内は、テーブル同士の間隔が広く、間にドレープをたっぷり取ったレースカーテンが掛けられていて半個室状態になっている。
隣のテーブルに座る人の顔が見えず、内緒話をするのにちょうどいい。
「本当に結婚したんだ。おめでとう」
実音の食事の注文を済ませるなり、芽衣子は実音の左手を取って「もう有坂さんて呼べないね」などと騒ぐ。
左手には、今日も彼から贈られた指輪が嵌められている。
芽衣子は、実音の手を高く持ち上げ、照明にかざして反射を楽しみながら祝福の言葉をくり返す。
「幸せそうでよかった」
ひとしきり指輪の輝きを堪能した後で、芽衣子が手を離してくれた。
「ありがとう」
「でもCEOは指輪をしてなかったよ」
彼女のその言葉に、実音は小さく肩を上下させる。
「休日は海翔さんも指輪をしているのだけど、周囲に公表するまでは仕事の時は外すことにしているの」
実音の説明に、芽衣子は「海翔さんだって〜」と茶化してくるので恥ずかしい。
「仕事辞める前、実音ちゃんの様子が変だったかた心配していたんだ。結婚するって言うのに、相手の子と、なにも教えてくれないし。でも相手がCEOだったから、言いだせずにいたんだね」
芽衣子は、さっそく実音の呼び方を『有坂さん』から『実音ちゃん』に変更している。
「そういうわけじゃないんだけど、心配かけてごめんね」
「実音ちゃんが幸せなら、それでいいよ」
芽衣子は手をヒラヒラさせて、明るい口調で言う。
「ありがとう」
そんなふうに言われると、彼女を騙していることがもうしわけなくなる。
それでも本当のことを打ち明けるわけにもいかず、実音がぎこちなくお礼を言うと、芽衣子は表情をちょっと真面目なものにして言う。
「でも、CEOと結婚したこと、早めの公表した方がいいよ」
「え? どうして?」
意味がわからず首をかしげると、芽衣子は口元に手をそえ、声を潜めるようにして言う。
「実音ちゃんがいなくなってから、社内社外とわず、CEOを狙ってる女性陣のアプローチすごいんだから」
「え?」
どいうことだろうと目を丸くする実音に、芽衣子は、テーブルに肘をついてやれやれといった感じで息を吐く。
「CEOがモテるのは以前からのことだけど、これまでは、実音ちゃんがいるから諦めていた女性も多かったじゃない。だけど実音ちゃんが退職して、CEOが元気ない今がチャンスって感じで、アプローチが激化してるのよ」
「なにそれ、なんの話?」
実音が会社を辞めたぐらいで、彼が落ち込むはずがない。
目を瞬かせる実音に、芽衣子はそんなことないと力説する。
しかも「結婚していつでも会えるのに、職場で会えないだけでなんなに落ち込むなんて、すごい愛があるよね」なんて言ってくる。
その誤解は、何処からくるのだか。
彼と実音が結婚することになったのは、偶然が重なった成り行きに過ぎない。
もしあのバーで再会していなければ、自分たちはそれっきりの関係だったのだから、彼が落ち込んだりするはずがないのに。
ついでに芽衣子は「前から、CEOと実音ちゃんがふたりで話している時の雰囲気に特別感があるのは、わかってたんだよね」なんてことまで言っている。
もちろんそんなのは、後付けの感想でしかない。
だからといって否定するわけにもいかないのだけど。
芽衣子は、そんな実音の胸の内に気付くことなく、どこの部署の誰が海翔にアプローチしているのかを話し、実音のことを愛している海翔はちっともなびかないと誇らしげに付け足した。
同情で結婚してもらっている身としては、海翔がモテるという話ばかりが気になってしまう。
そしてお喋りを楽しみながら食事を終えて会計をしようとしたら、事前に海翔から店に連絡が入っていて、今日の請求は彼に回すよう言われていると支払いを断られてしまった。
朝、実音に店の確認をしたのは、このためだったらしい。
彼がそんな気遣いのおかげで、芽衣子がよけいにふたりの間には揺るぎない愛があると勘違いされてしまったので恥ずかしい。