買われた花嫁は冷徹CEOに息もつけぬほど愛される
「実音、今日の予定は?」
芽衣子との食事会の翌日、出勤する海翔を玄関先まで見送りに出た実音は、皮靴を履く海翔にそう聞かれた。
「なにもないです」
強いて言うのであれば、食材を買いに行こうと思っていたけど、冷蔵庫に残っているものだけでも今日の夕食は作れるので無理に行かなくてもいい。
荷物の受け取りなり、おつかいなり、海翔が実音に頼みたいことがあるのであれば、もちろんそれを優先する。
そう思っていると、靴べらを所定の位置に戻し、実音からビジネスバッグを受け取る海翔が言う。
「なら、外で待ち合わせをして、一緒に展覧会を見に行かないか?」
そう言って海翔が口にしたのは、実音が好きなグラフィックデザイナーの展覧会だった。
活躍したのは十九世紀だけど、柔らかな曲線で女性を描く彼の絵は今なお世界的な人気があり、日本でも時々展示会が催されているけど、この時期に都内で開催されていることは知らなかった。
会場は老舗百貨店のイベントホールなので、そのついでに食事をして帰ろうと提案してくれる。
「実音の話を聞いていたら、その画家に興味が湧いた。実際の絵を見ながら、色々聞かせてくれると嬉しいんだが」
お互いを知るために、毎晩色々なことを話していく中で、そのグラフィックデザイナーの話もしたのは覚えている。彼は、その話を覚えていてくれてくれたらしい。
「いいんですか? 海翔さん、忙しいんじゃないんですか?」
昨日も、実音が寝るまでに彼は寝室に来なかった。
朝目覚めた時には隣で寝ていたので、遅くまで仕事をしていたのだろう。
「他にやりたいこともないから、忙しくしていただけだ。実音が付き合ってくれるなら、気分転換がしたい」
彼にそんなふうに誘われて、断れるはずがない。
「そう言ってもらえるなら、一緒に行きたいです」
実音が目を輝かせてそう言うと、海翔は、仕事の状況を確認して昼頃に連絡をするので、その時に待ち合わせ場所や時間を決めようと話して出勤して行った。
いってらっしゃい。と、彼を見送った実音は、締まったドアに背中を預けてその場にへたり込んだ。
両手で頬を包むとかなり熱っている。
「これ、デートのお誘いって思っていいのかな?」
これまでも、実音が買い物に行く際に家にいた彼がついてくることはあった。
でも彼の方から実音を誘ってくれるのは、指輪を買いに行った時以来だ。しかもあの時は、実音の持ち込んだ荷物のあまりの少なさに見かねてのこと。
今回のように、彼の方から食事や展覧会に誘ってもらうのは初めてだ。
「なに着て行こう?」
彼が自分を誘ってくれた意図は、よくわからない。
実音への気遣いなのかもしれないし、もしかしたら本当に、実音の話を聞いて興味を持ち、実物を見てみたいと思ったのかもしれない。
それでもせっかく、彼の方から誘ってくれたのだ。可愛いと思ってもらえるよう、ちゃんとお洒落をしなきゃ。
そう考えたら、やるべきことはいっぱいある。
近く帰国する兄と、どう話し合うべきかということや、彼とのこの先について、考えるべきことはたくさんあるけど、今日だけはそういった問題を一度棚上げにして、彼とのデートに備えたい。
驚きのあまりその場にへたり込んでいた実音は、勢いよく立ち上がると、自分の部屋へと急いだ。
芽衣子との食事会の翌日、出勤する海翔を玄関先まで見送りに出た実音は、皮靴を履く海翔にそう聞かれた。
「なにもないです」
強いて言うのであれば、食材を買いに行こうと思っていたけど、冷蔵庫に残っているものだけでも今日の夕食は作れるので無理に行かなくてもいい。
荷物の受け取りなり、おつかいなり、海翔が実音に頼みたいことがあるのであれば、もちろんそれを優先する。
そう思っていると、靴べらを所定の位置に戻し、実音からビジネスバッグを受け取る海翔が言う。
「なら、外で待ち合わせをして、一緒に展覧会を見に行かないか?」
そう言って海翔が口にしたのは、実音が好きなグラフィックデザイナーの展覧会だった。
活躍したのは十九世紀だけど、柔らかな曲線で女性を描く彼の絵は今なお世界的な人気があり、日本でも時々展示会が催されているけど、この時期に都内で開催されていることは知らなかった。
会場は老舗百貨店のイベントホールなので、そのついでに食事をして帰ろうと提案してくれる。
「実音の話を聞いていたら、その画家に興味が湧いた。実際の絵を見ながら、色々聞かせてくれると嬉しいんだが」
お互いを知るために、毎晩色々なことを話していく中で、そのグラフィックデザイナーの話もしたのは覚えている。彼は、その話を覚えていてくれてくれたらしい。
「いいんですか? 海翔さん、忙しいんじゃないんですか?」
昨日も、実音が寝るまでに彼は寝室に来なかった。
朝目覚めた時には隣で寝ていたので、遅くまで仕事をしていたのだろう。
「他にやりたいこともないから、忙しくしていただけだ。実音が付き合ってくれるなら、気分転換がしたい」
彼にそんなふうに誘われて、断れるはずがない。
「そう言ってもらえるなら、一緒に行きたいです」
実音が目を輝かせてそう言うと、海翔は、仕事の状況を確認して昼頃に連絡をするので、その時に待ち合わせ場所や時間を決めようと話して出勤して行った。
いってらっしゃい。と、彼を見送った実音は、締まったドアに背中を預けてその場にへたり込んだ。
両手で頬を包むとかなり熱っている。
「これ、デートのお誘いって思っていいのかな?」
これまでも、実音が買い物に行く際に家にいた彼がついてくることはあった。
でも彼の方から実音を誘ってくれるのは、指輪を買いに行った時以来だ。しかもあの時は、実音の持ち込んだ荷物のあまりの少なさに見かねてのこと。
今回のように、彼の方から食事や展覧会に誘ってもらうのは初めてだ。
「なに着て行こう?」
彼が自分を誘ってくれた意図は、よくわからない。
実音への気遣いなのかもしれないし、もしかしたら本当に、実音の話を聞いて興味を持ち、実物を見てみたいと思ったのかもしれない。
それでもせっかく、彼の方から誘ってくれたのだ。可愛いと思ってもらえるよう、ちゃんとお洒落をしなきゃ。
そう考えたら、やるべきことはいっぱいある。
近く帰国する兄と、どう話し合うべきかということや、彼とのこの先について、考えるべきことはたくさんあるけど、今日だけはそういった問題を一度棚上げにして、彼とのデートに備えたい。
驚きのあまりその場にへたり込んでいた実音は、勢いよく立ち上がると、自分の部屋へと急いだ。