プレイボーイと恋の〝賭け〟引き
「そんなこと言ったら、我儘言っちゃうよ」
「ははっ。りっかちゃんの我儘はご褒美だから、いつでも大歓迎」
「言ったね。だったら、誕生日デートの追加リクエストするよ?」

 一週間後に控えた莉都花の誕生日のことを口にする。

 誕生日デートは柊仁が提案してくれたもので、仕事終わりにディナーへ行くことになっている。

 そこにとんでもないリクエストをしてやろうと企む莉都花の思惑に、柊仁は果たして気づいているのだろうか。少しも躊躇うことなくあっさりと承諾してくれる。

「いいよ。何?」
「ふーん、いいんだ。それじゃあ――」

 莉都花は一度そこで言葉を区切ると、柊仁にもたせかけていた体を起こし、柊仁の目を真っ直ぐに見つめながら続きを口にした。

「ご飯のあと、まだ一緒にいてよ」

 いつまでとは言わない。でも、言わなくともわかるだろう。

 誕生日は金曜日で、なんなら翌日もデートしようかなんて言っていたくらいだから、わからないはずがない。

 柊仁はほんの一瞬だけ驚いたような表情をしたものの、すぐににっこりと笑って答えを返す。

「いいよ。なんなら朝まで一緒にいてやろうか」

 やはりこの男はあっさりとこういうことを口にする。そして、その真意を探ろうとしている莉都花をいつもからかうのだ。

 今日もそうじゃないかと思いつつ、それでも莉都花は柊仁の言葉を真正面から受け止めてみる。

「……うん。朝までいてほしい」

 こちらは本気で言っていると伝わるように、合わさった視線は少しも逸らさない。真っ直ぐに見つめ続ける。

 肉体関係だけを求めているのとは違うから、その瞳に情欲は宿らせていない。一晩を共に過ごすくらいの親密な距離になりたいのだと、懇願の眼差しを送る。

 柊仁の瞳も真っ直ぐに莉都花を見つめていて、気持ちが合わさっているように感じたのも束の間、柊仁の表情がふっとやわらいだ。

「ったく。りっかちゃんはおねだり上手だな」

 繋いでいないほうの手で豪快に頭を撫でられる。

「あっ、ちょっと髪型崩さないでよ」
「崩してない。崩してない」

 そう言いながら柊仁は雑に莉都花の髪を直し、楽しそうに笑っている。

 それで二人の間の空気が一気に変わってしまった。
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