プレイボーイと恋の〝賭け〟引き
「ははっ。りっかちゃん、あのときもそうやって言ってた。泣きながら、『こんな話して、ごめんなさい』って俺に謝ってたよ」

 謝るなんていったいどんな話をしていたのかと怖くなる。

 それを知りたいような、知りたくないような複雑な気持ちになるが、迷惑をかけた以上ちゃんと知っておくべきだろう。莉都花は恐る恐る訊き返した。

「……どんな話してた?」
「好きな人と別れたって泣いてたな。この間の人のことだろ?」

 やはりそれだったかと納得する。莉都花がひどく酔ってしまったのも、和真との別れ話が原因なのだから。

 しかし、柊仁にそんな話をしたことは、まったく思い出せない。

「覚えてない……でも、彼に別れようって言った日に、あのバーに行ったことは覚えてる。一人でいるのは嫌で飲みに行ったの」
「そっか。りっかちゃん、好きな人とはいつもこうなるんだって言って泣いてた。大輝とのことも、かいつまんでだけど話してた。それで気づいたんだよ。大輝の名前は出してなかったけど、あのとき大輝が自慢してた彼女だなって、話の内容から気づいた」

 まさか過去のことまで話していようとは、酒の力とは恐ろしい。素面でなら絶対に話していなかったはずだ。

 それにしても大輝の幼馴染に、大輝とのことを話していたなんて、とんでもない偶然だ。大輝の元カノだと柊仁が先に気づいていたならまだわかるが、そうでないなら偶然以外の何物でもない。

 果たして柊仁が話し相手でよかったのか、悪かったのか。そのときの記憶がない莉都花には何とも言えないが、それが今に繋がっているのだとしたら、よかったのかなと思う。

 もしもそれがなければ、結婚式で柊仁が話しかけてくれることもなかったのかもしれないのだから。

 そう思ったところで、莉都花はふと思い至る。初対面で柊仁がいきなり『りっかちゃん』と呼んだのは、バーでの出来事があったからではないかと。
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