プレイボーイと恋の〝賭け〟引き
「……ありがとう、柊仁。ごめんね。そんなによくしてくれてたのに、覚えてなくて」
「本当だよ。公園のことも何も覚えてないもんな」

 唐突に話が飛んで、莉都花はまた首を傾げる。

「え? 公園?」
「いつもの公園。あそこにも一緒に行ってるんだよ。バーを出たあと、りっかちゃん、自力で帰れる雰囲気でもなかったからさ、酔いざましに連れてったんだ。そこでりっかちゃんの話を聞いてた」
「ごめん……覚えてない」

 本当に何も覚えていない。覚えているのはバーに行ったところまでと、朝目覚めてからだ。その間の記憶はすっぽりと抜けている。

 柊仁は、それはもうわかっていると頷いている。

「知ってる。でも、二回目に行ったときに、りっかちゃん、『懐かしい感じがする』って言ってたよな」
「あっ、言ったかも」

 莉都花としては初めて訪れたと思っていたあのときに、莉都花はあの公園に懐かしさを覚えていた。幼い頃に見た何かの風景と似ているからだろうと思っていたが、その前に一度訪れているのなら、それが原因なのかもしれない。

 柊仁も同じようなことを言ってくる。

「なんとなく記憶に残ってんのかなって思った。俺にとっては、りっかちゃんとの大事な思い出だから、なんとなくでも覚えてくれてたら嬉しいなって思ったんだよな」
「柊仁……」

 忘れていることに対する後悔が強くなっていく。大事な思い出と言ってくれるそのときを覚えていないのが、本当に悔しい。柊仁に対する申し訳なさもさらに強くなる。

 莉都花が後悔を滲ませた表情で柊仁を見つめれば、柊仁はなぜかとても優しい表情で見つめ返してきた。
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