プレイボーイと恋の〝賭け〟引き
 無言で抱きしめあう中、莉都花の胸には柊仁への様々な思いが駆け巡る。それはどれもこれも柊仁への愛からくるものだが、その中の一つ、莉都花にとっては少し怖くもある思いが主張を強くする。

 でも、それは柊仁を強く想うがゆえのものだから、莉都花はそれをすくい上げて、表へと出す。

「……ねえ、柊仁。わだかまりが残ったって言ったよね? だったら、柊仁も解消してきてよ。私にそうさせてくれたみたいに、柊仁も千紗ちゃんとのわだかまりをなくしてきて」
「いや、でも、それは……」
「無理にってわけじゃないけど、それで柊仁がいい方向に向かうならそうしてほしい。それに千紗ちゃんが裏切ったっていうのも、どうしても信じられなくて……ちゃんと話したほうがいいんじゃないかなって思ったの」

 少しの怖さと切なさ、そして、柊仁を救いたいという大きな気持ちで、その提案をした。訳ありの元恋人と会わせるなんて、できればしたくない。それでも柊仁を愛しているから、柊仁のためになることを莉都花は選びたい。

 柊仁にも憂いなく、生きていってほしいのだ。

「莉都花……でも、それは莉都花がつらいだろ?」
「二人の間にわだかまりがあるって思うのもきっとつらいよ。それにね、柊仁に背中を押してもらったとき、私、とても嬉しかったの。だから、私もそうしたい。そうさせてほしい」
「莉都花……」

 揺れる柊仁の瞳を見つめながら、柔らかな微笑みを彼へ向ける。

「ちゃんと柊仁の帰りを待ってるから」
「ははっ、できた彼女で困るな。ありがとう、莉都花。絶対に離れることはないって約束する。この気持ちは絶対に変わらない。だから、俺も過去と向き合ってきてもいい?」
「いいよ。行ってきて」
「莉都花。本当にありがとう」

 きっと大丈夫だと信じ、莉都花は柊仁に回した腕の力を強くした。
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