プレイボーイと恋の〝賭け〟引き
***

 ビシッとタキシードを着込んだ男と華やかなドレスに彩られた女。高砂席に座る二人は、誰もが羨むほどの幸せのオーラを放ち、式の参列者にそれをお裾分けしている。

 二人を見守る人々も、皆一様に笑顔で、会場中に幸福の空気が満ちている。

 友人としてゲスト席に座る白壁(しらかべ)莉都花(りつか)も、当然、皆と同じように笑みを浮かべているが、莉都花のそれは自然と出たものではない。莉都花の今の心境では到底笑顔になんてなれないから、ただの礼儀として、この場にふさわしい表情を浮かべているに過ぎない。

 別に莉都花に祝いたい気持ちがないわけではない。新郎である長窪(ながくぼ)大輝(だいき)は、莉都花の大学時代の同級生で友人だし、新婦である竹内(たけうち)美遥(みはる)は同じく大学時代の後輩だ。二人とは親しい仲だから、今日のこのめでたい日が訪れたことを心から嬉しく思っている。

 それでも莉都花が抱える過去と莉都花を翻弄する宿命が、どうしても莉都花を悲しい気持ちにさせる。切なくて、苦しくて、心が摩耗していくようだ。

 こんな暗い気持ちで祝いの場に出席していることを莉都花は申し訳なく思った。

 本当は、招待状が届いたときに、欠席で返すことも考えなくはなかった。けれど、招待してくれた気持ちを無下にはしたくなくて、二人に余計な心配をかけたくなくて、それはしなかった。

 しかし、いざ今の状況を考えてみれば、笑顔すら取り繕わないと出せない人間がいるなど、かえって悪いことをしているように思う。

 莉都花は自分が情けなくて、誰にも気づかれないほどの小さなため息を一つこぼした。

 披露宴は、すでにゲストによる余興へと移っていて、皆の注目はそちらに集まっているから、莉都花の笑顔が一瞬崩れたことなど誰も気づかなかった。たった一人を除いて。

 莉都花をじっと見つめる一つの視線は、莉都花とは別のテーブルの男がもたらしている。

 その男はしばらくの間、真っ直ぐにじっと莉都花へと視線を向けていたが、自分のことでいっぱいの莉都花がそれに気づくことはなかった。
< 2 / 154 >

この作品をシェア

pagetop