プレイボーイと恋の〝賭け〟引き
 しばらくして会話が途切れると、哲也が他の客のところへ行ってしまったから、その場に少し気まずい空気が流れた。といっても、それは莉都花しか感じていないのだろうが。

 莉都花はその空気を消すように、素朴な疑問を口にする。

「他に連れてきたい人、いたんじゃないですか?」
「うん? どうして?」
「ビンゴしてるときに随分楽しそうに話してたじゃないですか。女の子と」

 いい反応をしていた女性はたくさんいたのに、なぜわざわざ莉都花を連れてきたのだろうとずっと疑問に思っていた。

 莉都花を会場から連れ出したのは、莉都花を気遣ってのことかもしれないとは思ったが、わざわざこんなところまで誘う必要はなかったはずだ。

 柊仁に好意を寄せていそうな女性はたくさんいたのだから、その子らを連れてきたほうがよほど楽しかっただろうにと思う。

 しかし、柊仁は「そうだっけ?」とすっとぼけた返事をしている。

 その様を見ていたら、ふと嫌悪感を抱いたあのシーンが蘇ってしまって、莉都花は少し冷たい声で言い放った。

「耳打ちなんかして、ニヤニヤしてたくせに」
「耳打ち?」

 柊仁は一度首を傾げるが、すぐに納得したように頷き始めた。

 やはり心当たりがあるじゃないかと、莉都花が冷たい視線を向ければ、柊仁はお腹を抱えて笑い始める。

「はははっ、あれか。ニヤニヤって、りっかちゃん面白いなー。言っておくけど、別にやましい話なんてしてないから。もしもビンゴ揃ったら、景品譲るよって、話してただけ」

 予想に反して随分と健全な内容に、莉都花は目を丸くする。

 ひどい邪推をしてしまっていたらしい。だが、そもそも耳打ちなんてしなければ、そうは思わなかったのだ。

 莉都花はなんだか面白くなくて、小さく負け惜しみのような言葉をこぼす。

「……紛らわしいのよ」
「ははっ、期待に沿えなくてごめんね。もしかしてりっかちゃん――」

 柊仁はそう言ったあとに莉都花の耳元に口を寄せる。

「エッチなこと想像しちゃった?」
「っ!?」

 柊仁の囁き声に、莉都花は慌てて耳を塞ぐ。

 からかうのはやめてくれと柊仁にきつい視線を送るも、柊仁はなぜか楽しそうだ。

「そんな顔してもかわいいだけだよ」

 ダメだ。この男には何を言っても無駄なようだ。莉都花はなんだかドット疲れて、深いため息をついた。
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