プレイボーイと恋の〝賭け〟引き
「……大輝のあとにもう一人付き合った人がいるんです。同じ会社に勤めていた人で、私の過去の恋愛について知っている人でした」

 未だ癒えていない心の傷は、莉都花の最後の恋人がもたらしたものだ。莉都花は過去の恋愛の話も織り交ぜながら、その人とのことを語っていく。

「私、大輝の前にも同じ別れ方を二度経験してるんですよ……だから、恋をするのがとても怖かった。付き合っても、その人はまた自分以外の誰かを好きになるような気がして。だから、恋愛からは遠ざかっていたんですけど、その人は、私のそういう不安も全部わかった上で付き合ってくれました。ずっとそばにいるからと、心配なら結婚から始めようとまで言ってくれて」

 莉都花の最後の恋の相手は、初めから永遠の愛を誓おうとしてくれた人だった。だからこそ、彼との恋愛に踏みきった。今度こそはと信じて。

「私のことを思いやってくれる本当に優しい人でした。さすがにいきなり結婚はしなかったけど、お互いにずっと結婚は意識してたと思います。そんな状態で三年くらい付き合って……でも……」

 莉都花はそこで言葉を区切る。たぶん柊仁はこの話の結末をもうわかっているだろう。

 それでも莉都花の話を黙って聞いているから、莉都花は震える声で、その恋の結末を口にした。

「結局、その人とも一年前に同じ別れを迎えました」

 ギュッと手を握りしめて、苦しさを堪える。彼とはずっと続く未来を想像していたから、その別れはあまりにもつらくて、莉都花は転職までしたのだ。もう二度と彼の姿を目に入れなくて済むように。

 しかし、一年が経っても完全に傷は癒えていなくて、大輝と美遥の結婚式さえつらくなってしまったのだ。

「だから、大輝は悪くないんです。たまたまつらい時期に重なってしまったってだけで。どちらかといえば、そんな状態で出席した私が悪いんです」

 すべてを言いきった莉都花に、柊仁は優しくも、なぜか切ない表情を浮かべている。

「やっぱり、りっかちゃんは損するタイプだ。そんなにつらいなら、大輝のことなんか気にしなきゃよかったのに」

 莉都花はそうじゃないと首を振る。

「……自分のためでもあったから。たぶん私はもう恋はできないから、大輝たちの姿を目に焼き付けて、けじめをつけたかったんです。恋と決別するけじめを」

 この先、莉都花が誰かと恋をすることはもうないと思っている。誰かと結婚をすることも一生ないだろう。

 だから、そのことを己の胸に刻もうと、大輝たちの結婚式に出たのだ。誰かと恋をしても、こういう終わりしか迎えないと自身に思い知らせるために。
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