プレイボーイと恋の〝賭け〟引き
第三章 動悸に心当たりはありません
 植物のレンタル契約をしているオフィスには、莉都花らグリーンコーディネーターが提案したデザインをもとに様々な観葉植物が設置されている。

 そんな契約先へ定期訪問中の莉都花は、植物の状態を一つ一つ確認し、必要なメンテナンスを施している。

 定期訪問時には、水やりや剪定といった作業のほか、ときには植物の交換を行うこともある。植物の大きさは様々で、大きな鉢を運ぶこともあるから、体力を求められる場面も多い。

 女性である莉都花にとっては大変な部分もあるが、やりがいも大きいからやめられない。オフィスに緑を一体化させ、癒しの空間を作り上げたときの達成感は、ほかでは得られないものなのだ。


 他のメンバーと共に滞りなくメンテナンス作業を終えた莉都花は、社用車に戻って一息つく。水をごくごくと飲んで失った水分を補給し、ふぅーっと長く息を吐きながら伸びをした。

 隣には同じくメンテナンス作業にあたっていた朱里が座っている。

「莉都花。あんたいいことあったでしょ」
「え? どうしてですか?」

 朱里の唐突な言葉に首を傾げる。いつも通りに作業をしていただけだが、何かあっただろうかと莉都花は考え込む。

「いつもより張り切ってるじゃない。なーんか機嫌よさそうに見えるし」
「そうですか……?」

 そんなにいつもと違うだろうかと、意味もなく自分の体に目を向ける。しかし、そんなことをしてもわかるわけがなく、莉都花はもう一度首を傾げた。

「ふーん、自覚なしに機嫌いいんだ。最近、何か変わったことあるんじゃないの?」

 その問いに、莉都花はドキッとする。最近変わったことといえば、大きな心当たりがあるが、それを口にすることはできない。

 別にやましいことだとは思っていないが、今はまだそれが曖昧なものだと思っているから、莉都花が返す言葉も曖昧なものになった。

「いや、うーん、どうでしょうね。あはは……」

 朱里は少しの間、探るような視線を莉都花に向けていたが、すぐににこっと笑って、追及する空気をなくしてくれた。

「ま、莉都花が楽しいんなら、何でもいいけどねー」

 もう一度「あはは」と何ともいえない笑いをこぼした。

 莉都花はここに至って、朱里の言う機嫌のよさの理由にも思い当たっていたが、それには気づかないふりをした。
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