プレイボーイと恋の〝賭け〟引き
「何? そんなにじっと見ないでよ」
「いやー、その色もいいなと思って。リップ変えただろ?」

 驚きで小さく「えっ」と声を漏らす。確かに今日はいつもと違う色のものをつけているが、そこまで大きな色の変化はない。いつもより少しオレンジの色合いが強いが、普段の色をよほどしっかりと見ていないとその違いには気づかないだろう。

 莉都花は驚きを越して、もはや感心してしまう。

「よく気づくね」
「そりゃあ、愛しのりっかちゃんのことだからね」
「っ。そう」

 むず痒くなるワードチョイスに、莉都花はまたも愛想のない返ししかできない。それでもやはり柊仁はそんなことはまったく気にならない様子で、ストレートな言葉を投げてくる。

「本当に似合ってるよ」
「……ありがとう」
「今度さ、俺からリップ贈ってもいい? りっかちゃんに似合う色の選ぶから」

 本当にこの男はどうしてそういうことが簡単に言えるのだろうか。女慣れが透けて見えて、少し複雑な気持ちになる。

 しかし、こちらを見ている柊仁があまりにもワクワクとした目をしているものだから、莉都花は少しだけ素直になって、「楽しみにしてる」と答えた。

 二人の間にほんの少しだけ甘い空気が流れる。莉都花はもう少しそれに浸っていたいような、早く違う空気に変えたいような、なんともいえない気持ちになる。

 もう一度カクテルに口をつけ、もう少しだけはと今の沈黙を楽しもうとするが、それは、この店の新たなる来訪者によって壊されてしまった。
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