プレイボーイと恋の〝賭け〟引き
 柊仁の運転する車で二人が向かったのは、莉都花にとっては懐かしく、しかし何の変哲もない場所。

 莉都花が通っていた学校やよく遊んでいた公園、近所のスーパーにホームセンターと、わざわざ飛行機でやって来てまで、見に行くようなところではない。

 莉都花は思い出に浸れるからいいが、縁もゆかりもない柊仁は何の感動もないはずだ。

 しかし、柊仁は莉都花の思い出の地を訊いては、そこへ莉都花を連れていく。

 特に福岡らしさもないようなところばかりを回っていて、莉都花のほうが申し訳なくなってくるが、柊仁はなぜか楽しそうだ。


 莉都花が通っていた高校の前へやって来た今も、興味深そうにその外観を眺めている。

「ここに女子高生だったりっかちゃんが通ってたのか」
「なんか言い方がやらしい」
「かわいい彼女の制服姿想像したら、そうなるのも無理ないだろ」

 何を想像してくれているのだと柊仁を非難する。

「もうやめてよ。堂々と変態みたいなこと言わないで」
「本音だからしかたない」

 開き直るのも大概にしてほしいものだ。もう呆れてため息しか出ない。

 しかし、柊仁はそんな莉都花の様子にも構わず、まだ同じ話題を引っ張ろうとしている。

「制服はセーラーとブレザーどっちだった?」
「セーラーだけど」
「セーラーか。見てみたいな。りっかちゃんのセーラー服姿」

 まさかアラサーにそれを着せようというのかと、莉都花は己を抱きしめるようにして、それはしないと断固拒否する。

「着ないからね!」
「ははっ、なんでその発想になるんだよ。卒業アルバム見せてって言おうとしたのに」
「あー……」

 早とちりをしてしまったらしい。恥ずかしくて頭をかいていれば、結局は柊仁がそれを言いだした。

「でも、今のりっかちゃんがセーラー服着てるところも見てみたいかも」
「絶対に着ないから!」

 もう一度強く拒否すれば、柊仁は「残念」と言って笑った。
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