プレイボーイと恋の〝賭け〟引き
「っ!? 和真(かずま)さん……なんで……」

 莉都花に強烈なトラウマを残した元恋人・一ノ瀬(いちのせ)和真がそこにいる。そして、その隣には和真と別れる原因にもなった女性・雨宮(あめみや)祥子(しょうこ)が立っていた。

「りっちゃん……」

 祥子の呼びかけに莉都花は切なく眉根を寄せる。二人からの視線を振り切るように、体を反転させれば、「莉都花!」という声と共に手首を強くつかまれた。

 驚いて体をびくっとさせる莉都花を、ここにいるもう一人の人物が落ち着かせる。

「すみません。お知り合いのようですが、少し待ってもらえますか? 彼女怯えてるんで」

 柊仁のその言葉で、和真は「すみません」と言いながら、莉都花をつかんでいた手を離した。

「りっかちゃん、いったん中入ろう」

 柊仁はそう言って、車のドアを開け、莉都花を中へと促す。

 本当にいいのだろうかと不安で瞳を揺らす莉都花に、柊仁は微笑みながら小さく頷いた。

 その表情がとても優しくて、それに縋りたかった莉都花は、大人しく柊仁の言う通りに車へと乗りこんだ。

 柊仁は莉都花を車の中に入れると、何やら和真と話をしている。車の中だとその声は聞こえなくて、莉都花はそわそわと落ち着かなくなるが、柊仁は少し話しただけで、すぐに車の中へと入ってきた。和真と祥子も彼らの車の中へ移動していた。

 ここからいったいどうしたらいいのだろうかと戸惑う莉都花に、柊仁は優しく手を重ねてきた。そして、そのままぎゅっと手を握られた状態で、前置きもなく、問いかけられる。

「最後の元カレ?」

 先ほどの和真との会話でそれを聞いたか、もしくは莉都花の反応で察したのだろう。莉都花はこくっと小さく頷いた。

「……うん」
「そっか。さすがにこんなところで会うとは思わないよな」
「うん……でも、彼も地元はこっちだから。それに、隣にいたのは私の幼馴染なの……」

 それから莉都花はぽつりぽつりと過去のことを語り始めた。
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