プレイボーイと恋の〝賭け〟引き
「逃げたのは僕も同じだよ」
「え?」
「あの日、莉都花から別れを切り出されて、僕は莉都花の気持ちを少し疑ってしまったんだ。僕のことはそこまで愛してないんじゃないかって。別れてもいいと思えるくらいの気持ちなんじゃないかって。それならこのまま別れを受け入れたほうが、莉都花は楽になるのかもしれないと思った。でも、僕は受け入れたくはなくて……それであのときは言い返すこともなく、帰ってしまったんだよ」

 莉都花は和真の『ごめん』が、別れを受け入れてのものだと思っていた。後日、別れについてしっかり話そうと言っているのだと思っていた。

 でも、二人はそこで大きなすれ違いをしていたらしい。本当に不器用すぎる。

「ごめん……全然気づいてなかった……」
「言わなかったからね。きっと僕たちは言葉が足りなかったんだよ。とても深い仲になったつもりでいたけれど、醜い部分をさらけ出す強さがお互いになかった。ずっと一緒にいるためには、それが必要だったのに」
「……確かに、そうかもしれない。自分の気持ちを全部外に出すのが怖くて、たくさん内側に隠してた気がする。一緒に生きていくなら、それだとダメなのにね……」

 きれいな部分だけを表に出して、醜い部分は一切出そうとしなかった。恋を上手にするなら、こうあるべきだというようなものにとらわれて、無理に形作っていたのかもしれない。本当はもっと自然体であるべきだったのに。

「そうだね。ダメなところもお互い見せ合うべきだったんだろうね。でも、今の莉都花はそれができているように見える。さっきの彼のおかげ?」

 莉都花は少し迷いながらも小さく頷いた。

「うん……さっきも背中を押してくれて、和真さんと話す決心がついた」
「そっか。いい人と巡り会えたんだね。莉都花が幸せみたいでよかった」

 優しく微笑む和真に切なく胸が締めつけられる。

 少しだけ涙が浮かびそうになるが、それを堪えて、莉都花も微笑み返した。
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