プレイボーイと恋の〝賭け〟引き
 一頻り泣いて少し落ち着くと、柊仁は抱きしめていた腕を緩め、莉都花の顔を見ながら問いかけてきた。

「りっかちゃんは後悔してここに帰ってきたわけ?」

 莉都花はそうではないと強く首を横に振る。

「ううん、前に進もうって約束してきた。別の道を進んで、お互い幸せになろうって」
「そっか。りっかちゃんは別の道で後悔しない?」
「しない。しないよ」

 和真との道はもう途絶えている。そこに戻ろうとも思っていない。

 今、莉都花が歩みたい道はたった一つ。和真とのわだかまりが消えた今、莉都花にはそれがはっきりと見えている。

 柊仁の目を真っ直ぐに見て、迷いがないことを示せば、柊仁はニッといたずらな表情で笑ってみせた。

「じゃあ、俺との賭けは続行だな」

 柊仁らしい台詞に、莉都花もくすりと笑って頷いた。その拍子に瞳に残っていた涙が一粒こぼれ落ちる。

 柊仁は涙で濡れた莉都花の頬を優しく袖で拭ってくれた。

「ごめんね、泣いたりして」
「ははっ。何言ってんだよ。これは彼氏の特権だろ。りっかちゃんが泣いていいのは、俺の前でだけだから。そのかわいい泣き顔は俺だけのもの。な?」
「……バカ」

 莉都花は小さくそう呟いてから、柊仁にぎゅっと抱きつき、今度は安堵から来る涙をこぼした。

 苦しかった過去に決着をつけ、胸の内をさらし、今はとても清々しい気持ちになっている。

 これまで吹き荒れていた恋の臆病風はすっかり止んでしまった。

 莉都花の内からは今、はっきりとした想いが顔を出している。その想いが全身に満ちていき、もはや己の中だけでは抑えきれない。

 溢れ出るその想いを込め、莉都花は柊仁に回した腕の力をもう少しだけ強めた。
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