プレイボーイと恋の〝賭け〟引き
第五章 あなたの毒牙にかかりたい
 高台の公園に柊仁と二人きり。ベンチに並んで座った二人の距離は密着するほど近く、二人の手はしっかりと重なり合っている。

 過去と決着をつけ、前を向けるようになった莉都花は、福岡から戻って以来、柊仁との関係に積極的になった。

 莉都花から柊仁を誘うことが増え、柊仁に対する態度には甘さを滲ませるようになった。

 今も莉都花は柊仁に甘えるようにして、そっと頭を柊仁の肩にもたせかけている。

 頭上からは微かに笑う声が聞こえてきた。

「最近のりっかちゃんは甘えただな」
「ダメ?」
「いや、最高に決まってんだろ。俺としてはもっと甘えてほしいくらいだし」

 今日も柊仁は通常運転だ。

 柊仁は相変わらず甘いことを言うし、甘える莉都花をまるっと受け入れてくれる。そんな恋人がいて幸せだと思うが、莉都花は同時に物足りなさも感じていた。

 柊仁は莉都花を愛している素振りを見せる一方で、なぜかこれ以上関係が深まらないように一線を引いていると感じるのだ。

 口ではいつもそれらしきことを言うが、最終的にはすべて冗談にして、わざと二人の仲を進展させないようにしている。

 やりとりだけは、いっぱしのカップルのそれなのに、未だにキスすらしていない。

 二人の関係を深めたくはないのかと、一度莉都花は柊仁を試してみたことがある。わざと二人の顔を近づけ、無言で真っ直ぐに柊仁を見つめてみたのだ。

 莉都花はしっかりと甘い空気を出していたから、きっと普通のカップルだったなら、そこで軽いキスくらいはしていただろう。

 しかし、柊仁はあろうことか、莉都花の頬を片手で挟んで遊び始めたのだ。莉都花が本気で怒ったのは言うまでもない。

 今も柊仁は『甘えてほしい』なんて言っているが、どこまで本気で言っているのかわからない。

 賭けの関係を超えて、本当の恋人へと進みたい莉都花は、柊仁が冗談で言っていることも全部本気にしてやるぞと、今の柊仁の言葉に乗っかった。
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