過去を知りたがる女【短編】
彼に会ったのは、行き付けのバーだった。
繁華街から少し離れたところにある、いかにもな古びれた小さなバーで、いつも同じ表情のマスターが一人で経営していた。
私は、男と別れた後は、必ずそこでお酒を飲む。
そこで新しい男を探すつもりはない。ただ、そこが落ち着くから。
私は、メンソールのタバコをふかしながら何も考えずボーっとしていた。
タバコの火を消す。
グラスを前に出し、手を上げヒラヒラさせる。
マスターは何も言わず私のグラスにお酒を注ぐ。