過去を知りたがる女【短編】
私は、手を上げてヒラヒラさせる。

「あの人常連?」近寄って来たマスターに小声で言う。

マスターは、ゆっくり、かつ小さく首を振る。

あの男が本当に常連でも首を振っただろう。マスターはそういう人だ。

でも、私には、その首の振り方で、彼が初めて来た客だとわかった。


私は、席を立つとその男の方に向かった。「そのお酒おいしいの?」

チラリとこちらを見ると、男は無視してタバコを取り出した。

「どーぞ」ライターの火を差し出す。

男は何も言わず、その火を使った。

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