ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
――エリスは式の準備のため、一週間前に帝都入りしていた。
アレクシスの所有するエメラルド宮にてドレスのサイズ調整を行い、宮内府の者から式の流れを教わった。
けれどその一週間の間、アレクシスは一度もエリスの元を訪れなかったのだ。
ようやくエリスがアレクシスに会えたのは、式の直前――つまり、今より約三十分前のこと。
だがそのときだってアレクシスは、「エリス・ウィンザーと申します」と名乗ったエリスに、「ああ」と素っ気なく相槌を打つだけだった。
(でも、それも仕方のないことよね。スフィア王国は小国で、しかもわたしは王族ではないのだから)
これは宮内府の者から聞いたことだが、ヴィスタリア帝国の皇子らの妃たちは、正室・側室共に各国の元王族であるという。
帝国の皇室典範に"花嫁は王族でなければならない"という決まりはないとはいえ、エリスの様な小国出身の公爵令嬢が嫁いだ前例はないのだと。
だからだろう。エリスが正室ではなく、側室の座に収まることになったのは。
(とにかく、この方の機嫌を損ねないように務めなくては……。他に行く当てもないのだから)
エリスはこの結婚に強い不安を覚えながらも、アレクシスと結婚の誓いを交わした。