ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

 それから早二年。二人は一度も顔を合わせていない。

 それにここ一年は手紙がぱったりと止んでいたこともあり、アレクシスはリアムのことを殆ど思い出さない日々を送っていた。

 だが、そのリアムが今になって戻ってきた。エリスと結婚した、このタイミングで。
 となると、目的は一つしか考えられないではないか。

(リアムは再び俺に、オリビアとの結婚を迫ってくるはず。――だからこちらから先手を打ったというのに、どうしてあいつは現れない? 俺と話をつけるために戻ってきたんじゃなかったのか?)

 アレクシスは思考を巡らせながらも、裏路地から出て大通りへ足を向ける。
 これ以上待っても無駄だろうと、そう判断したからだ。


 すると通りに出たところで、何やら辺りが騒がしいことに気付く。
 衛兵たちが橋の方に集まっているようだ。

 いったい何事だろうか、アレクシスは走りゆく兵を呼び止め報告を求める。
 すると兵はこのように説明した。

「川に落ちた二人の子供を救おうと、ご婦人が飛び込んでしまわれて。それを追いかけて、リアム・ルクレール中尉も川に」と。

 それを聞いたアレクシスは、ハッと目を見開いた。
 リアムが待ち合わせ場所に現れなかったのは、このせいだったのか、と。

(あいつ、昔から正義感だけは誰よりも強かったからな)

 なるほど。こういう事情であるならば致し方ない。
 話し合いの機会はまた作るとして、今は川に落ちた子供たちの救助である。

 アレクシスは兵と共に、急ぎ現場の橋へと向かった。
 けれどアレクシスが着いたときには、既に救助は終わったあとだった。
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