ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

「どうやら救助は終わったようですね。子供は二人とも無事なようです」

 兵の言葉に、アレクシスは欄干から下――五十メートルほど下流の土手に目を凝らす。
 すると確かに、土手の比較的平らなところに兵たちが集まって、何やら盛り上がっていた。

 声までは聞こえないが、あの様子からすると死者や重傷者がいないことは確かだろう。
 アレクシスはひとまず安堵したが、とはいえ、念の為自分でも状況を確認しておきたい。
 
 そう考えたアレクシスは、ひとり土手を下り、兵たちの元へ向かっていった。

 二年ぶりに再会するリアムに、何と言葉をかければいいだろうか。上官として、『よくやった』と褒めてやらねばならないだろうか――と考えながら。


 けれど、その思いは一瞬にして消え失せてしまった。
 そこにエリスの姿を見つけたからだ。

「…………!」

 兵たちの中心にいたのは、リアムに背中を支えられ、子供二人を抱き締めているエリスの姿。

(エリス……? なぜここに。それに、その姿は……)

 びりびりに引き裂かれたドレスの裾。全身から(したた)り落ちる雫。
 前髪は額にべったりと張り付き、水を吸った服は、エリスの身体のラインをあられもなく強調している。
 それによく見れば、ところどころ肌が擦り剝けて赤く滲んでいた。

 朝自分を送り出してくれたときとはまるで別人のように、痛々しいエリスの姿。
 それを目の当たりにしたアレクシスは、全身からさぁっと血の気が引くのを感じた。
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