ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜


「ユリウス殿下……」

 エリスは胸の前で両手を握りしめ、瞼をぎゅっと閉じる。

 怖い……怖い。

 これからユリウス以外の男に抱かれるかと思うと、怖くて怖くてたまらない。
 いっそのこと、アレクシスが来なければいいのに。自分との初夜を拒否してくれたらいいのに――そう願ってしまうほど、恐ろしくてたまらない。


 けれどそんなエリスの願いは叶わず、まもなくして、アレクシスが部屋を訪れた。

 バスローブを一枚羽織っただけのアレクシスからは、強いアルコールの匂いが漂ってくる。

 かなりの酒を摂取したのだろう。
 酷く虚ろなアレクシスの眼差しに、エリスは強い恐怖を覚えた。

 エリスは酒が嫌いだった。
 父が酒に酔う度に、エリスの身体を殴ったからだ。
 
 身を固くするエリスに、アレクシスは吐き捨てるように命じる。

「脱げ」――と。

「……え」
「脱げと言っている。俺の妻ならば、夫の手を煩わせるな」
「――っ」

(……怖い)

 自分はこれから、本当にこの男と夜を共にしなければならないのか。
 そう考えると、恐ろしさのあまり逃げ出してしまいたくなった。

 けれど、そんなことが許されるはずもない。

(だってわたしはもう、この方と結婚してしまったのだから……)
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