ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
28.エリスの正体
「なぜ、君の肩に火傷の痕がある……?」
その傷痕を見た瞬間、アレクシスの心を埋め尽くしたのは困惑だった。
初夜のときにはなかったはずの火傷の痕。
だが、どう見ても今日できたものではない傷痕。
それが長年探し求めていた少女の傷痕と同じ位置にあることに、酷く混乱した。
(いったいどういうことだ? 侍女からは、今日以前にエリスが怪我をしたという報告は受けていないが……)
よもやエリスが『思い出の少女』であるという可能性など露ほども考えず、アレクシスは指先でそっと傷痕に触れる。
「エリス、この傷はいつできたんだ? 料理中か? 侍女からは、君が怪我をしたという報告は受けていないが」
それは当然、エリスを心配する気持ちから出た言葉だった。
けれどエリスから返ってきた答えは、全く予想外のものだった。
エリスは、アレクシスの言葉を聞いて数秒固まった後、思い詰めたような顔でこう言ったのだ。
「お許しください、殿下。わたくしのこの肩の傷は、幼いときにわたくしの不注意で負ったもの。これを殿下に見られればきっと祖国に追い返されてしまうと思い、自らの一存で白粉を塗り、傷を隠し続けておりました。侍女たちも預かり知らぬことです。殿下を謀ったこと、お詫びのしようもございません。罰はいかようにも」――と。
そして、その瞬間だった。
アレクシスの中に、『その可能性』が急浮上してきたのは。