ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
29.告白
「――っ」
刹那、エリスは文字通り放心した。
アレクシスの言葉が、全く予期せぬものだったからだ。
(殿下が……わたしを愛している? 今、そう言ったの……?)
正直、聞き間違いだと思った。
エリスは、流石のアレクシスでも、傷を隠していたことについては確実に怒るだろうと考えていた。
侍女たちに責がないことだけは理解してもらわなければと、それだけで頭がいっぱいだった。
それに、そもそもアレクシスは大の女嫌い。
そんな彼が自分を好きになるなど有り得ない――エリスはずっとそう思いながら、この半年間を過ごしてきたのだから。
それなのに、アレクシスの口から出たのはまさかの愛の告白で。
そんな状況に、驚くなと言う方が無理な話だ。
茫然とするエリスに、アレクシスは更に続ける。
「俺は、君の正直な気持ちが聞きたい。嫌なら嫌と言ってくれて構わない。君は俺を『許す』と言ったが、それが『俺を好いている』という意味ではないことくらい理解しているつもりだ。だから、君が俺を拒否するならば、俺はこの先、君への気持ちを胸に秘めておくと決めている。それによって、君に不利益になるようなことはないと、約束する」
「…………」
アレクシスの真剣な表情。
期待と不安の入り混じった、乞う様な眼差し。
その視線に、エリスは悟らざるを得なかった。
今の言葉は紛れもなく彼の本心なのだと。
そこに、嘘偽りはないのだと。
そもそも、自分がアレクシスに媚びるならばいざ知らず、アレクシスが自分に嘘をつく必要など一つだってないのだから。