ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

(つまり殿下は……本気で、私を……?)

「……っ」

 それを自覚した途端、エリスはぶわっと全身が熱くなるのを感じた。

 いったい自分のどこを好きになったのだろう。いつから思ってくれていたのだろう。
 花をプレゼントしてくれるようになった頃からだろうか。それとも、もっと前からだろうか。

 ああ、ということは、今日川でアレクシスがリアムに見せたあの態度は、本当にただの牽制だったということだろうか。

『俺の妃だ』『気やすく触れていい女ではない』と言い放ったアレは、彼の独占欲の表れだったと……そう考えていいのだろうか。

(そんな……でも、だって……)

 ならば、馬車の中で自分が何か言いかけたとき、アレクシスが言葉を遮ったのはいったいどうしてなのだろう。
 自分を腕に抱えて下ろさなかったのは、素足だったからだと説明された。でもそれは、アレクシスがずっと不機嫌だった理由の説明にはなっていなかった。

 だからエリスは、アレクシスから『他に何かあるなら言ってみろ』と言われ、悩んだのだ。
 これは聞いてもいい内容なのだろうかと。

 それがどうしても気になってしょうがなくなったエリスは、おずおずと口を開く。

「あの……殿下。一つ、お尋ねしてもよろしいでしょうか」
「ああ、勿論だ」
「殿下は先ほど、わたくしを腕に抱えて下ろさなかったのは、わたくしが素足だったからだと、ご説明くださいましたが……」
「ああ。それがどうした?」
「では、わたくしが馬車の中で話しかけた際、どうして言葉を遮られたのですか? わたくしに怒っていなかったというなら、どうして……」
「――!」

 刹那、アレクシスはハッと瞳を見開いた。
 確かにエリスの言う通り、説明不足だったことに気付いたからだ。

 ――否。実際は説明不足などではなく、意図的に省いたと言った方が正しいだろうが。

 アレクシスはやや瞼を伏せ、躊躇いがちに唇を開ける。

「それは……俺が恐れたからだ。君に拒絶されることを、恐れたから」
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