ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

 エリスに比べ二周りも三周りも大きなアレクシスの身体が、エリスの身体をすっぽりと胸に収め、その耳元で、問いかける。
 
「これからは、こうして抱き締めても構わないんだな?」

 その問いにエリスがこくりと頷くと、アレクシスは嬉しさのあまり、一層腕に力を込めた。
 もう放さないとでもいうようにエリスをしっかりと腕に抱き、その柔らかさをひとしきり堪能したあと――思い立ったように唇を開く。

「エリス……、今の今言うことではないとわかってはいるんだが」と。

 その声にエリスが顔を上げると、アレクシスはじっとエリスを見下ろし、真顔で告げた。

「俺は、君との初夜をやり直したいと思っている。勿論、君の心の準備ができたときでいい。少し、考えておいてくれないか?」
「……それって」
「当然、そういう意味だ」
「……っ」

 ――本当は、今すぐにでも押し倒してしまいたい。
 このまま唇を奪って、抱いてしまいたい。

 けれど初夜のことや怪我のこともあり、流石にすぐというのは(はばか)られた。
 かと言って、こうしてエリスを抱き締めその感触を知ってしまった今、いつまでもお預けをくらうというのはとても耐えられそうにない。

 だからアレクシスは、全ての恥とプライドをかなぐり捨てて、こうして尋ねてみたのだが……。

 エリスから返ってきたのは、まさかの内容だった。

「あ……、その……わたくしは、いつでも……」
「――!?」

(いつでも、だと……!?)
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