ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

Fin.初恋の少女


 太陽が地平線に沈み、祭りの喧騒も鎮まってきたころ、アレクシスはまだベッド上にいた。

 今にも眠ってしまいそうなエリスを腕に抱き、亜麻色の髪を優しく撫でていた。


「すまない。無理をさせたな」
「……いえ……、そのような……こと……、……は……」
「少し眠れ。その間に食事の用意をさせておく。昼から何も食べていないからな。軽くでも、腹に何か入れた方がいい」
「……は……い」

 アレクシスがそう言うと、エリスは体力の限界を迎えたのか、すぅ――と眠りに落ちていく。

 ――無理もない。アレクシスは、一度ならず二度もエリスを抱いたのだから。


(流石にやりすぎたか)

 アレクシスはエリスをそっとベットに横たえると、反省の意を込めて大きく息をはく。

 本当は一度でやめるつもりでいた。
 だが、どうしても性欲という名の本能に勝てなかった。


(……あんな風に言われてしまってはな)


 アレクシスは思い返す。
 一度目のコトが済んだあと、「君は俺の初恋だったんだ」と告げたときの、エリスの反応を。

 エリスは、かつてランデル王国で助けた相手がアレクシスだったことを知ると、驚いた様に目を見開いたのち、気恥ずかしそうに頬を染め、こう言ったのだ。

「では、わたくしが今こうして殿下といるのは、運命だったのかもしれませんね。あのとき殿下のお命をお救いできて、本当によかった」――と。

 一点の曇りもない瞳で、柔らかく微笑んだのだ。


 それを聞いたアレクシスは、再び身体が熱を持つのを止められなかった。
 だから彼は、エリスと物理的に距離を取るべく、急いでベッドから這い出ようとした。

 けれどエリスの、「殿下、どちらへいかれるのですか?」との声に引き留められ、あえなく断念。
 我慢しきれず二度目のコトに及んで、今に至るというわけである。


「……あの顔は、反則だろう」


 思い出すと、それだけで下半身が反応してしまう。

 情事の後の、赤く高揚したエリスの頬。
 まるで誘っているかのように、上目遣いで自分を見上げる潤んだ瞳。

 特に他意はないとわかっていても、欲情せずにはいられなかった。

「…………」


 自分の隣で、まるで警戒心の欠片もなくすやすやと寝息を立て始めたエリスを見下ろし、アレクシスは再び大きく息を吐く。

(寝顔すら、こうも(いと)おしいとは)

 溢れ出る想いを抑えきれず、エリスの頬にゆっくりと指を這わせ――その耳元に唇を寄せる。


「エリス――君に、感謝する」


 ――俺に、君を愛する機会を与えてくれて。


 アレクシスはそう囁くと、眠っているエリスの顔をしばらく見つめ、その薄紅色の唇に、自身の唇をそっと重ねた。


《Fin.》
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