ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
4.翌朝
翌朝、アレクシスは目を覚まして早々に絶句した。
隣に裸のエリスが寝ていたからだ。
「――ッ!?」
彼は驚きのあまりベッドからずり落ちかけて、けれどなんとかバランスを持ち直し――ようやく昨日のことを思い出す。
そうだ。自分はこの女と結婚したのだった、と。
――それにしても、夕べ酒を煽りすぎたせいか、記憶が殆ど抜け落ちてしまっている。
エリスとの閨事を見送ろうとする自分に、側近のセドリックが薬を差し出してきたところまでは覚えているのだが……。
(あいつ……薬の量を間違えたのか……?)
いや、あのセドリックのことだ。間違えなど万に一つも有り得ない。
とするなら、やはり記憶の喪失は酒のせい……ということになるが。
何にせよ、この状況から察するに初夜は無事に済んだのだろう。
記憶がほぼ飛んでしまっているので、実際のところはわからないが……。
アレクシスは大きく溜め息をついて、自分の着ていたバスローブはどこだろうかとあたりを見回した。
そうして、再び言葉を失った。
なぜなら、アレクシスの視線の先――シーツの上に、本来あるはずのない赤い染みができていたからだ。
処女でなければできるはずのない、くっきりとした血痕が。
考えるまでもなく、それはエリスの血に違いなかった。
「…………は?」
(待て。この女……純潔だったのか?)
瞬間、脳裏に蘇る昨夜の記憶。
エリスに向かって"脱げ"、"お前を愛する気はない"と言い放ったことや、その後の、手荒……などという軽い言葉で片づけられないほどの所業。
確かにそれらは全て本心から出た言葉だったが、その最たる理由はエリスが幾人も男を取り替えるような、ふしだらな女だと聞いていたからだ。
それなのに、まさか乙女であったとは……。
「…………」
アレクシスはさぁっと顔を蒼くして、口元を手のひらで押さえる。
自分は取り返しのつかないことをしてしまったのでは――と。