ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
エリスは否定しようと口を開く。「殿下、わたくしは――」と。
けれどそれより速く、エリスの前に躍り出てユリウスに頭を垂れたのは、妹のクリスティーナだった。
「殿下! まさかお姉さまがそんなことをするはずありませんわ! これは何かの間違いにございます!」
「……クリスティーナ」
姉の無実を乞う、美しい妹クリスティーナ。
明るくて、気さくで、誰からも愛される、笑顔の可憐なクリスティーナ。
だが、そんなクリスティーナが自分を庇う様子に、エリスは言いようのない不安を覚えた。
(どうしてあなたがわたしを庇うの……? いつもはわたしに嫌がらせばかりするのに……)
けれど、その間にもユリウスとクリスティーナの話は進んでいく。
「ああ、僕だって最初は間違いだと思ったさ! だが、この男はエリスの秘密を知っていた。僕しか知らないはずの……君の秘密を……!」
ユリウスの怒りと悲しみに揺れる瞳が、エリスを静かに見つめた。
「エリス……僕は君を信じていたのに……。この男は、君の肩に火傷の痕があることを知っていたんだ。それが何よりの証拠だよ」
「……っ!」
その言葉に、エリスは顔を青くしてその場に崩れ落ちる。
身に覚えなどない。男のことなど知らない。ユリウス以外の男に、この傷跡を見せたことは一度もない。
それなのに、いったいどうして……?
絶望の中、「この女を二度と僕の目に触れさせるな」という冷たいユリウスの声が遠くに聞こえ――気が付いたときには、エリスは会場の外に追い出されていた。