ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
「……湯浴みの準備をしてちょうだい」
青白い顔で、エリスは侍女たちに指示をする。
すると、侍女たちは顔を見合わせた。
「でも、エリス様。やっと傷が癒えたところなのに……」
「そうですよ。普通に歩けるようになるまで二週間もかかったことをお忘れですか?」
「殿下の伽に応じる必要なんてありません!」
「夕食ごとお断りしたらいいんです! 体調がすぐれないと言えば、殿下だって諦めるほかないと思いますわ!」
「……あなたたち」
自分を庇おうとする侍女たちの姿に、エリスの心が熱くなる。
自分は一人ではないのだ、と。ここには、こんなにも自分に優しくしてくれる人がいる。
ならば、自分もそれに応えなければ――そう思った。
「ありがとう。あなたたちの気持ちはとっても嬉しいわ。でも、お願い。殿下の悪口は言わないで。わたしのためにあなたたちが罰を受けたりしたら、耐えられないもの。――ね?」
「エリス様……」
「それに、ここで殿下の御不興を買ってわたしが追い出されたら、今度こそ殿下は宮を返還してしまうかもしれないわ。そんなことになったら、あなたたちも困るでしょう?」
「…………」
「さあ、わかったら殿下をお出迎えする準備を始めてちょうだい。もうあまり時間がないわ」
「……はい」
こうしてエリスは侍女たちと共に、アレクシスを迎え入れる準備に取り掛かった。