ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜


(急にどうなさったのかしら……)

 エリスは一瞬放心するが、すぐに我に返って返事をする。

「申し訳ございません。皇子妃が料理をするのは、よくありませんでしたか?」
「いや、そうは言っていない。――ただ……」
「ただ……?」
「どんな料理を作るのだろうかと思ってな」
「……? 殿下は、料理に興味がおありなのですか?」
「興味と言うか…………いや、もういい」
「…………」

(いったい何なの……?)

 エリスは困惑した。
 目の前のアレクシスが、まるで自分と会話したがっているように思えたからだ。

 絶対に有り得ないことだとわかっているのに、一瞬でもそう感じてしまったことが、自分でも不思議でならなかった。

(もしかして、どこかお身体の具合でも悪いのかしら? でも、もしそうならこちらにいらっしゃったりはしないはず。……やっぱりわたしの気のせいね)

 エリスは再び食事を食べ始める。

 だが、食後のデザートが運ばれてきたときのことだ。
 アレクシスが突然「人払いをしろ」と言い出した。

 それを受けてセドリックを含めた全ての使用人は外に出され、部屋にはエリスとアレクシスだけが残される。

 当然エリスは恐怖した。
 アレクシスと二人きり――初夜のことを思い出し、身が縮んだ。

 いったい自分は何を言われるのだろうか、何か粗相をしてしまったのだろうか、と。

 そんな中、アレクシスが口にした言葉。それは、エリスの予想を上回るものだった。

 なんとアレクシスは「すまなかった」――と、謝罪の言葉を口にしたのだ。
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