ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜



 そんなことを考えている間に、目的地に着いたようだ。

 エリスは馬車から降り、侍従の案内で会場までの長い廊下を進んでいく。
 水晶宮と呼ばれるだけあって、建物のほぼ全てがガラス製だ。

 流石に床は大理石だが、それ以外の壁や天井、梁や柱に至るまで、ガラスで造られている様は圧巻である。

(綺麗。本当に水晶でできているみたい。帝国って凄いのね)


 エリスがエメラルド宮を出るのはこれが初めてだ。

 輿入れのときは精神的に追い詰められていたために、帝都の様子を見ている余裕はなかった。
 だからエリスが街を見るのもこれが初めてなのだが、帝都の街並みは美しく立派で、エリスをどこまでも驚かせた。


 お茶会の会場は巨大な温室のようになっていた。
 ガラスでできたドーム状の広い建物の中には、青々とした沢山の観葉植物や、色とりどりの花が咲き乱れている。

 いくつも並べられたテーブルでは、先に到着したであろう令嬢たちがお喋りに興じていた。

 令嬢たちはエリスに気が付くと、皆一様に優しく微笑み、
「ごきげんよう」「あら、初めての方かしら」「仲良くしてくださいね」と声をかけてくれる。

 名前を尋ねられ、「エリスと申します。この度皇室の末席に加えていただくことになりました。皆さまどうぞよろしくお願いいたします」と答えた後も、令嬢たちの態度が変わることはなかった。

(よかった。これなら上手くやれそうだわ)

 エリスはほっと安堵する。
 ――だが、そのときだった。

 別のテーブルについていた令嬢のうちの一人が、突然こう言い放ったのだ。

「あら、よろしくだなんて。いくら皇子殿下の妃だからって、しょせんは側室。それも小国出身の公女となど、仲良くなんてできませんわ」と。

「……っ」

 その辛辣な物言いに、エリスは言葉を失った。
 和やかだった空気に一気に緊張が走り、他の令嬢たちはどうすべきかと顔を見合わせる。

 おそらく、今発言した令嬢は身分が高いのだろう。
 他の令嬢は顔色を伺うように、ひそひそと言葉を交わし始める。

(どうしましょう。この空気……)
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