ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
◇
「先ほどはごめんなさいね。あの方、悪い方ではないのだけれど、昔から少し困ったところがあって……」
「いえ、こちらこそご迷惑をおかけして、申し訳ありません」
「あら、あなたが謝ることは一つもないのよ。さあ、席はあちらに。エリス様は初めてのご参加だから、本日はわたくしと一緒のテーブルにいたしましょう」
そう言って案内されたのは、会場の一番奥のテーブルだった。
ドームの外の美しい庭園が、一番良く見渡せる席。
エリスが椅子に腰かけると、マリアンヌも反対側に腰かける。
「式のときは慌ただしくて全然お話できなかったから、こうして来てくれて本当に嬉しいわ」
「わたくしも、お目通りが叶いまして嬉しく思います、マリアンヌ皇女殿下」
「あら、皇女殿下なんて堅苦しい呼び方しなくていいのよ。わたくしのことは、マリアンヌと」
「……はい。では……マリアンヌ様」
躊躇いがちにそう呼ぶと、花の様に顔を綻ばせるマリアンヌ。
その笑顔に、エリスはさっきまでの緊張が嘘のようになくなるのを感じた。