ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

10.その頃、アレクシスは


 エリスがマリアンヌとのお茶会を楽しんでいる頃、アレクシスは宮廷内の執務室のソファにて、ぶるっと身体を震わせていた。

 急に寒気を感じたからである。

(何だ……? 風邪か?)

 最近はなるべく早く帰宅しようとろくに休憩を取らないため、疲れが溜まっているのかもしれない。

(少し仕事を減らすべきか……。いや、だがそんなに簡単に減らせるものでも……)

 アレクシスがそんな風に考えていると、不意にクロヴィスの声が飛んでくる。

「可笑しな顔をしてどうしたんだい、アレクシス?」
「あ……いえ……、急に寒気がしたものですから」
「寒気?」


 今、ローテーブルを挟んだ反対側のソファにはクロヴィスが座っていた。

 アレクシスは、つい先ほど先触れもなくやってきたクロヴィスに「確認したいことがある」と言われ、ソファに座らされたばかりだった。


 寒気がする、と言ったアレクシスに、クロヴィスは「ふむ」と顎に手を当ててほくそ笑む。

「大方、誰かがお前の噂話でもしているのだろう」
「噂話?」
「ああ、今日は例の茶会の日だろう? マリアンヌのことだから、お前の昔話を面白おかしくエリス妃に語っているのではないかな」
「…………」

 確かに、マリアンヌには昔からそういうところがあった。
 社交的で人懐っこく素直な性格の彼女だが、一度気を許した相手には何でもペラペラと話してしまうのだ。

 それもあって、アレクシスはエリスがお茶会に参加することに不安を抱いていたのだが、案の定である。


「まぁ、とはいえ、もしマリアンヌが気を許したというのなら、エリス妃は疑うべくもなく善良な人間だということだ。マリアンヌの人を見る目は確かだからな。心配することはないだろう」
「……それは、確かにそうでしょうが」
「何だ。もしやお前は、夫としての威厳が保てなくなることを案じているのか?」
「いえ、特にそういうわけでは……」

 クロヴィスの問いに、歯切れ悪く答えるアレクシス。
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