ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
顔を青くするアレクシスに、クロヴィスはやれやれと肩をすくめる。
「本当に手のかかる弟だね。そんなことだろうと思って、ここに来る前に宝石商を手配しておいた。デザイナーと細工師と共に、夕方には来てくれるそうだ。カット済みの石を百点用意するよう伝えてあるから、今夜中に決めてしまいなさい。いいね?」
「……はい」
アレクシスが答えると、クロヴィスは手にしていた一枚の紙を手渡し「これはエリス妃のドレスのデザイン画だ。頑張りなさい」と言い残して去っていく。
だがアレクシスには、その意味がわからなかった。
(頑張る? いったい何を……。それにこのデザイン画は何だ? ただ宝石を選ぶだけじゃないのか?)
ドレスのデザイン画を見つめ、大きく眉を寄せるアレクシス。
彼は、先ほどからすっかり空気と化しているセドリックを呼びつける。
「セドリック、今の話、聞いてたな?」
「はい」
「なら、兄上の最後の言葉の意味がわかるか?」
「そりゃあ、ドレスに合わせた装飾品を作るにはそれ相応のセンスが求められますし」
「ドレスに合わせた? なんだ、それは」
「…………。もしや殿下は、石を数点選べば終わりだと思っていらっしゃるのでは?」
「ああ、その通りだが。違うのか?」
「全く違います」
セドリックにピシャリと言い捨てられ、アレクシスは困惑する。
そんな主人の姿を見て、「今夜は徹夜になりそうだ」――とセドリックが内心大きな溜め息をついたことを、アレクシスは知る由もない。