ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
その笑顔に、アレクシスの心臓が跳ねる。
彼はごくりと喉を鳴らし、一歩、二歩と慎重にエリスに近づいていった。
そしてエリスのすぐ目の前に立つと、化粧箱の蓋をゆっくりと開いた。
美しく輝くエメラルドと、沢山のダイヤモンドが散りばめられたネックレスが、エリスの瞳に映される。
「殿下……まさかこれを、わたくしに……?」
「そうだ。三日後の舞踏会のドレスに合わせて作らせた。ギリギリになってしまって、すまなかった」
「……っ」
「本当はもっと早く完成させる予定でいたんだが……デザインをあれこれ悩んでいたらこんな時期になってしまってな」
実は忘れていただなんて、口が裂けても言えやしない。
「え……? このネックレス、殿下がデザインされたのですか?」
「ああ……一応な。き……気に入らないか……?」
「そんな、まさか……! 気に入りましたわ! 凄く……凄く綺麗です。……本当に嬉しいです。ありがとうございます、殿下」
気恥ずかしそうに微笑むエリスに、アレクシスは心底安堵する。
こんなにも緊張したのは、初めて戦場に立ったとき以来かもしれない、と。
だが、とても良い気分だった。
戦果を認められるのとは、全く違う達成感。
自分の贈り物を、喜んでくれる人がいる。
その人の喜ぶ顔を見ると、こんなにも満たされた気持ちになるのかと。
それはアレクシスにとって、思い出の中のエリスとの出会いと同じくらい、特別な瞬間だった。