ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
そのときのエリスの感情といったら、一言では言い表せない。
贈り物をされたことは嬉しいのに、「どうして言ってくれなかったのだろう。言ってくれればこんなに悩むこともなかったのに」という怒りにも似た感情が溢れ出し、それと同時に、アレクシスの「仕事だ」という言葉を信じてあげられなかった自分が心底情けなくなった。
――そして気付いたのだ。
自分がいつの間にか、アレクシスを怖いと思わなくなっていることに。
それどころか、好意を抱いていることに。
(あんなに酷い目に合わされたのに……変よね、わたし)
そもそも女性嫌いのアレクシスだ。
常に愛想は悪いし、口調も全然優しくない。ユリウスのように髪型やドレスを褒めてくれることもない。
微笑んだ顔だって、一度たりと見たことがない。
それでも、このエメラルド宮で共に過ごすうちに彼の誠実さを知った。
いいことはいい、悪いことは悪い、好きならば好きだと言うし、できなければできないとはっきり言う。
けれど、他人に何かを押し付けたり、否定したりはしない。そういう実直なところに好感を持った。
最初は怖いと思っていた、側近のセドリックと仕事の話をしているときの気難しい横顔や、指示を出すときの低く抑揚のない声も、これがこの人の「普通」なんだと知った今は何とも思わなくなった。
むしろ、感情をあまり表に出さないアレクシスのことをもっとよく知りたいと――今、この人は何を考えているのだろうかと――エリスはいつの間にかそう思うようになっていたのだ。