ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
――そんなことを考えているうちに、出発の時間を迎えたようだ。
部屋のドアがノックされ、「準備はできたか」という声と共にアレクシスが入ってくる。
その声にエリスが振り向くと、そこには軍服姿のアレクシスが立っていた。
結婚式のときと同じ、式典用の華やかな装飾が施された黒い軍服。
式の時はよく見ていなかったけれど、こうして改めて見るとアレクシスには黒が一番似合う。
ただでさえ長い足はもっと長く見えるし、その分圧迫感は増すけれど、それ以上に凛々しさと逞しさも増している。
(……何だか、顔が熱いわ)
エリスがパッと顔を逸らすと、アレクシスは不思議そうな顔をする。
「……? どうかしたか?」
「い、いえ。何でもありませんわ。参りましょう、殿下」
「? ああ」
エリスの言葉に、アレクシスは左腕を差し出した。
その仕草に、エリスは目を見張る。
(これってエスコートよね……? 嘘、女性嫌いの殿下が……?)
エリスが困惑していると、アレクシスは不満そうに言い放つ。
「俺だってエスコートくらいはする」
「――!」
「そもそも今夜は舞踏会だぞ。離れていたらおかしいだろう」
「た……確かに、仰るとおりですわね……」
(そうよね。舞踏会で夫婦が離れていたら、変よね……)
エリスは心の中でアレクシスの言葉を復唱し、右手をそっとアレクシスの左腕に添えた。
ユリウスと比べて、腕の位置が少し高い。
その当たり前の違いに、意味もなく胸の鼓動を速めながら――エリスはアレクシスにエスコートされて、夜の王宮へと向かった。