ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

16.消えたエリス


 同じ頃、アレクシスはセドリックと共に東側の廊下を足早に進んでいた。
 その顔を、強い苛立ちに染めて――。


 ことは数分前に遡る。

 アレクシスが他国の軍事関係者と話をしていていると、マリアンヌが血相を変えてやってきた。
 そして「エリスがいなくなった」と言うのだ。

 詳しい説明を求めると、マリアンヌはこのように話した。

 お花を摘みにいって戻る途中、東側の廊下をエリスと思われる女性が歩いていた。
 その女性は、他国の衣装を着た男と一緒だった。追いかけたようとしたが、東側の廊下に着いたときには既にいなくなった後だった――と。

 マリアンヌはそれが人違いだった可能性も考慮し、会場に戻ったあと一通りエリスの姿を探したという。
 けれど、どこにもいないのだ、と。

 それを聞いたアレクシスが、今度は廊下で見たという男の特徴を尋ねると、「銀色の髪の男」だったと返ってくる。

 その答えに、アレクシスは確信した。エリスを連れ出したのは、ジークフリートに違いない、と。
< 64 / 136 >

この作品をシェア

pagetop