ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
(あの男は毒だ。……それも、猛毒だ)
人間誰しも心の中に欲望を秘めている。それを、ジークフリートは叶えてしまう。
すると叶えられた人間はどうなるか。
望みを叶えてもらったことに恩を感じ、それが繰り返されることで次第に陶酔していくようになる。
あるいは、一部の者は弱みを握られたと思い、逆らえなくなる。
どちらにせよ、ジークフリートから離れられなくなるのは同じだ。
実際アレクシスも留学中、ランデル王国で"思い出のエリス"を探しているときにジークフリートに声をかけられたことがある。
“人探しなら僕が手伝おう。すぐに見つけてあげるよ”――と。
アレクシスはきっぱり断ったが、それが返ってジークフリートの興味を引いてしまったのか。
その後卒業するまで、ジークフリートにまとわりつかれる羽目になった。
まぁ、アレクシスは徹底的に無視を続けたのだが。
――とは言え、これらは全て四年以上も前のことだ。今のジークフリートが当時と同じであるとは限らない。
だからアレクシスは油断していたのだ。四年も経てばその悪癖も多少は収まっているのではないか、と。
だが実際はこの有り様だ。
ジークフリートの目的がわからないとはいえ、アレクシスに何の断りもなくエリスを連れ出したとなると、あまりいい状況ではないだろう。