ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

 ◇


 そこにいたのは、燕尾服を纏った年若い青年だった。
 暗がりのためにはっきりとはわからないが、顔立ちからすると歳は十五、六といったところか。

 身分は一目見て貴族だとわかる。
 その立ち姿が、全身から溢れ出る純然たる貴族の風格が、彼を貴族たらしめていた。


(こいつが、エリスを……。エリスはどこだ……?)

 男と対峙しつつ、アレクシスは視線を動かしてエリスの姿を探す。
 だが、見たところエリスの姿はどこにもない。

 いったいこれはどういうことだろうか。

「おい、貴様。俺の妃をどこへやった」

 アレクシスが傲然(ごうぜん)と問いかけると、男は大きく眉を寄せ、言い放つ。

「あなたには見えませんか? ――いますよ、ちゃんと、そこに」

 同時に男が身体を半歩斜めに引く。
 そしてゆっくりと右手を上げ、庭の奥を指差した。

 するとそこにあったのは、大木の根元に横たえられたエリスの姿。


「――ッ」

 さあっ――と、一瞬で血の気が引いた。

 地面に横たわり、ピクリとも動かないエリスを目の当たりにし、アレクシスの中で怒りが一気に膨張した。
 と同時に、頭は酷くクリアになり、どうやって目の前の男を殺してやろうかと算段をつけ始める。
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