ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
――そもそも、ヴィスタリア帝国はこの大陸の東半分を支配する大国である。
西の果てにあるここスフィア王国とは全く交流がないが、大陸の半分を制する国なだけあって、その噂は嫌でも耳に入ってくる。
政治、経済、そして武力。そのどれもが圧倒的で、今や帝国に逆らう国はない。
現皇帝は先帝に比べ平和的な政策を行うそうだが、それが可能なのは強大な常備軍を保有しているが故だ。
その軍隊の総指揮を取るのが、今年二十二歳を迎える第三皇子のアレクシス。
皇子でありながら前線に立ち、自ら剣で戦うことを好む。逆らう者は即打ち首。――そういう思想の男だと専らの噂だ。
成人した他の皇子たちは皆結婚しているにも関わらずアレクシスだけが未婚なのは、今までの婚約者を皆切り殺してしまったからだとも言われている。
(そんな方のところに……わたしが?)
エリスの背中に、じんわりと汗が浮かんだ。
心臓の音が煩い。――嫌だ、怖い。行きたくない。そう思った。