ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
(こいつ、いったい何を言っている……?)
支離滅裂だ。話が通じない。
これはやはり暴力に訴えるしかないだろうか。
だが、アレクシスがそう考え始めた矢先だった。
シオンはフラフラと数歩揺らめいて、憎悪に満ちた瞳でこう言ったのだ。
「聞きましたよ。あなたには思い人がいるんでしょう? ランデル王国に――初恋の女が」
「――ッ」
刹那、アレクシスは全てを悟った。
この件は、ジークフリートの起こしたものなのだ、と。
初対面であるシオンが、そのことを知っている筈がない。
それを知っているということは、ジークフリートが話したとしか考えられなかった。
「ジークフリート! お前、この男に何を吹き込んだ!?」
ランデル王国に"思い出のエリス"がいることを知る人間は、自分とセドリックくらいなものだ。
もしかしたらクロヴィスにも知られているかもしれないが、その程度のもの。
だがジークフリートには、アレクシスが留学中に人を探していたことを知られてしまった。その対象が女性であることも、当然気付いていただろう。
そもそも、シオンの在学証明書をあらかじめ用意していたということは、この件自体がジークフリートの計画の内だということだ。
「答えろ! お前、この男をたぶらかしたのか……!?」