ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
アレクシスは数時間前、舞踏会でエリスと踊ったときのことを思い出す。
緊張からか何なのか、突然『踊れない』と言い出したエリス。
そんな彼女をフォローすべく、身体を持ち上げるようにして最初のステップを踏んだときに感じた、大きな違和感を。
そう。そのときアレクシスは確かに思ったのだ。「軽すぎる」――と。
初夜のときから、細い体をしているなとは思っていた。
いやまあ、出るところはきちんと出ているのだが、腰も手足もほっそりしていて、豊満な体つきの帝国民女性と比べると随分違う。
とは言え、スフィア王国は帝国から遠く離れている上、交流もないこともあり、そういう民族なのかと特に気には留めなかった。
けれど弟のシオンは年相応の健全な学生らしい体格をしていたし、特に身長が低いということもなく。
そこから導き出された答えは、ジークフリートの『エリスは祖国で酷い扱いを受けていた』という言葉が、決して嘘ではないということだった。
きっとエリスは、食事も満足に与えられない生活を送っていたのだろう。
なるほどそれなら、彼女が料理ができるというのも納得がいく。幼かった彼女が食事にありつくためには、自分で料理をするしかなかったのだ。