ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
(きっとお仕事のことでお悩みなんだわ。だとしたら、わたしにできることは限られているけれど……)
悩んだ末に、エリスはアレクシスをお茶に誘うことにした。断られることを覚悟して。
だがアレクシスは一瞬ためらう様子を見せたものの、すぐに誘いを受けたのである。
「殿下、こちらカモミールティーですわ。リラックス効果や安眠効果がありますの。少しは気分が安らぐかと」
「ああ、……いただこう」
エリスが声をかけると、アレクシスはどこか緊張した面持ちで、テーブルの上のカップを持ち上げる。
そして一口含むと、ほっと息を吐いた。どうやら口に合ったようだ。
エリスは安堵しながら、反対側のソファに腰を下ろし、目の前のアレクシスを見つめる。
「あの、殿下。差し出がましいことを申しますが……」
「……?」
「もし、もしわたくしにできることがあるなら、何でも仰ってください。こうしてお茶を入れるでも、お話を聞くでも……殿下の憂いを取り除くお手伝いを、させていただきたく存じます」
「――っ!」
刹那、アレクシスはハッと息を呑んだ。
相変わらず表情は読めなかったが、少なくとも、驚いているのは確かだった。
(殿下は、どうしてこんなに驚いているのかしら)
エリスからしたら、悩んでいる者に手を差し伸べるのは当然のこと。
だから、アレクシスがこれほどまでに驚く理由がわからなかった。
けれど言われた方のアレクシスは、『嫌いな男に茶を振る舞うだけでなく、そんなに優しい言葉をかけるなんて、君は女神か何かなのか』などと思っていた。
そんなアレクシスの考えなど露知らず、エリスはアレクシスに微笑みかける。
その温かな眼差しに、アレクシスは決意した。
「ならば、一つだけ尋ねていいか?」――と。
エリスが頷くと、アレクシスは瞳に不安の色を滲ませながら、こう問いかける。
「君は、どうして俺に優しくする? 俺のことを恐れているんじゃないのか?」
「……え?」