ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
アレクシスは今日、建国祭のパレードが終わったら、エリスに気持ちを打ち明けようと決めていた。
「君を好きになってしまった」「君のことをもっと知りたい」と。
そしてできれば、『エリスに触れない』というあの日の約束を、撤回したいと考えていた。
だが当然のことながら、その気持ちを受け入れてもらえるかはわからない。
エリスは、『自分を許す』と言いはしたが、『好意を持っている』とは言っていないからである。
つまり思いを伝えたところで、上手くいく可能性は低いということで――。
とは言え、このまま思いを秘めておくというのは現実的に難しい。
シオンが帝国に留学してくることが決まった今、たとえ玉砕しようとも、自分の気持ちをエリスに伝えておく必要があった。
そうでなければ、あのシオンには太刀打ちできない。
「僕の方が姉さんを愛しているのに」と気迫のこもった目で睨みつけてきたあの男に、言葉一つ言い返せない状況でいることは、自身のプライドが許さなかった。
さりとて、上手くいかなかったときのことを考えると気が滅入るのもまた事実。
だからアレクシスはその可能性を考慮して、告白の日取りを今日に決めたのだ。
建国祭の間の三日間は、国民の祝日。
稼ぎ時の接客業や、医療、警察関係者その他一部の業種を除き、全国民の仕事は休み。当然宮廷も閉まるわけで、今日の式典を終えれば完全にフリー。
よって、玉砕しても精神を立て直す時間は十分に取れるはず――と。
それにアレクシスにはもう一つ、どうしても片付けておかなければならない問題があった。
エリスに思いを伝える前に、清算しておかなければならない、セドリックにも知られていない大きな問題が。
それを片付けるために、アレクシスは今日、とある人物と会うことになっている。
エリスに気持ちを伝えると心に決めた翌日、アレクシスの方から「建国祭中ならば時間が取れる」と手紙を送ったところ、向こうは今日を指定してきた。
時間はパレードの後、帝都中央広場での第二皇子のスピーチが終わってすぐ。エリスとの待ち合わせの一時間前だ。
指定場所は広場から近いので、まあ問題はないだろう。