ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
(エリス……待っていてくれ。俺は今日、必ず君に気持ちを伝える。君が望もうと、望むまいと)
アレクシスは心の中で思考を整理した末、ようやくエリスに答える。
「ああ、そうだな。良い天気だ。君と祭りを回るのが楽しみだ」と。
するとエリスは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに笑みを零した。
「はい。わたくしも楽しみです、殿下」
小鳥がさえずるような声に、その可憐な笑顔に、アレクシスの胸が熱くなる。
ああ、きっとこれが『愛しい』という感情なのだろうな、と。
舞踏会の後、自分の気持ちに気付いたときは大いに戸惑ったものの、今では少しずつ慣れてきて、エリスの笑顔を見る度に込み上げるこの感情が、心地いいとさえ思うようになった。
もっとエリスの笑顔を見ていたいと、そう願うようになった。
(女嫌いの俺が、よもやこのような感情を知ることになるとはな)
物心ついたときから女と言うものが嫌いだった。
昔湖で命を救ってくれたひとりの少女を除いて、嫌悪感を抱くことはあれど、自分から触りたいと思ったことは一度もなかった。
それなのに今自分は、彼女に触れたいと思っている。エリスを抱き締めたいと思っている。
その為にはまず、自分の気持ちを伝えなければ。
その上で、彼女に気持ちを受け入れてもらわなければならない。
(現状からするとかなり厳しいが、それでも俺は……)
アレクシスはエリスを抱き締めたくなる衝動を押し留め、踵《きびす》を返す。
「ではまたパレード後に会おう。何かあればマリアンヌを頼れ。――ああそれから、昨日も伝えたが俺が行くまで広場からは出るんじゃないぞ。建国祭の間は周辺国からの観光客が多いせいで、揉め事が起きやすいんだ」
「承知しておりますわ。殿下の方こそ、お気を付けてくださいね」
「ああ、ではな」
そう言い残し、今度こそエリスに背を向ける。
そしてセドリックを伴って、休日前の最後の仕事を片付けるために宮を出た。